實川 風(ピアノ)

アルバムとコンサートで新風を巻き起こす

 ロン=ティボー=クレスパン国際コンクールで第3位(1位なし)に輝いた實川風が『ザ・デビュー』と銘打ったファースト・アルバムをリリースする。東京芸大修士課程在学中より演奏活動をスタートさせ、抒情的かつ勢いのある音楽作りと申し分のないテクニック、誠実な人柄と端正なルックスですでに注目を集めてきた實川だが、昨秋のコンクール受賞で一段と期待が寄せられている。「6日間で4ステージというハードなスケジュールのコンクールでしたが、会場のサル・ガボーというホールが素晴らしく、海外公演を楽しむような気持ちで臨めました」と振り返る。
 このデビュー・アルバムに収めたのは、全て同コンクールで演奏した作品だ。特徴的なのは2種類のピアノによる録音。長らくウィーン国立歌劇場で弾かれていたベーゼンドルファー250(1909年製)と、スタインウェイD-274である。
「ベーゼンドルファーは素朴で上品、人間の声のような中低音が魅力です。スタインウェイは共鳴が華やかでパワフル。シューマンの『アラベスク』では、まったく性質の違う2台のピアノで演奏し、それぞれ録音しました。楽器の特性に合わせたため、テンポなど、かなり表現に違いが生まれました」
 修士論文でチャイコフスキーの研究に取り組んだ實川が、中学時代から愛奏しているのが「ドゥムカ〜ロシアの農村風景」だ。「チャイコフスキーの描いた哀愁を伝えたい」とCDに収めた。コンクール委嘱作品であり、「新曲賞」も受賞したフランスの作曲家ヌーブルジェの「メリーゴーランドの光〜ピアノのためのタンゴ」は、色彩感に富んだ演奏で聴かせる。
「同時代人として共感を寄せやすいので、新曲に取り組むのは好きですね。ヌーブルジェのこの作品は現代のピアノの性能をフルに活かしたもので、さまざまな音色を追求しながら弾きたくなる曲です」
 ショパンのスケルツォ第3番には「男性的かつ複雑な感情」を、ベートーヴェンのソナタ第21番「ワルトシュタイン」には「巨大な生命力を感じる」という。
「かつては音楽の構造面に惹かれて演奏するタイプでしたが、近年はより一段と作曲家の感情、彼らの放つエネルギーにアプローチしたいと思っています」
 3月17日には「ピアノとホールとの相性が抜群」と語る銀座のヤマハホールで『ロン=ティボー=クレスパン国際コンクール第3位入賞&CDデビュー記念コンサート』を行う。収録曲に加えてリスト「巡礼の年 第2年」も披露するというから楽しみだ。気分転換にはバッティングセンターに通うという實川風。音楽界に瑞々しい旋風を巻き起こしてくれそうだ。
取材・文:飯田有抄
(ぶらあぼ + Danza inside 2016年3月号から)

3/17(木)19:00 ヤマハホール
問:オフィス・フォルテ03-6225-0039
http://office-forte.com

CD
『實川 風/ザ・デビュー』
ソニー・ミュージックダイレクト
MECO-1033
(SACDハイブリッド盤)
¥3000+税
3/23(水)発売