新国立劇場バレエ団『ラ・シルフィード』『Men Y Men』

2作品で体験するバレエの“伝統”と“現在”


 手を伸ばそうとすればするほど、遠ざかっていく理想、憧れ―『ラ・シルフィード』は、非日常、幻想の世界への飛翔を描いた作品だ。初演は1832年。大地との接触を極限まで小さくして立つことを可能にするトウシューズを履き、透けるような薄布を重ねたロマンティック・チュチュに身を包んだ女性ダンサーは、宙を舞う儚い妖精として観客の前に出現し、人々はロマンティックな幻視に酔いしれた。非現実世界への憧憬を描き出すロマンティック・バレエの大流行はこの作品からはじまった。
 新国立劇場がレパートリーとするのは、36年にデンマークで初演されたブルノンヴィル版。当時のスタイルを残す貴重な作例である。主人公の男性は空気の精シルフィードを抱きしめることができないというプロットに忠実で、パ・ド・ドゥにおいても、二人が触れ合う振付は極限まで抑えられている。向かい合い見つめあいながらステップを踏むなど、独特の上品な表現に注目を。女性ダンサーのしっとりとした物憂げな上体の表情や、男性ダンサーの素早い足さばき、弾むような跳躍も見どころだ。
 並演される『Men Y Men』(日本初演)は、昨年『眠れる森の美女』の振付を担当したウエイン・イーグリングによる2009年の作品。「典型的な男性らしさのみならず、男性の持つさまざまな側面を見せる振付になっています。いわゆる古典作品とはまた一味もふた味も違う、現代のバレエ作品です」(イーグリング)
 二作品を同時に観ることで、バレエの伝統と現在を体験できるのではないだろうか。
文:守山実花
(ぶらあぼ + Danza inside 2016年1月号から)                         

2016.2/6(土)〜2/11(木・祝) 新国立劇場 オペラパレス
問:新国立劇場ボックスオフィス03-5352-9999 
http://www.nntt.jac.go.jp/ballet