日本演奏連盟 創立50周年記念事業 演奏家と邦人作曲家シリーズ

日本のクラシック音楽界の足跡を辿る

 いまや日常にあふれるクラシック音楽だが、日本人による本格的な上演や創作が始まってから100年余りの歴史を数えるに過ぎない。作曲家、演奏家、そして音楽事業に関わる人々が情熱を傾け、異文化の芸術はこの国で独自の発展を遂げた。
 演奏は“なまもの”だ。人が演じるから、同じ曲でもいつもちょっとずつ違う。楽譜に書けないことはたくさんあるし、演奏を重ねることで見えてくるものもある。最前線を担う音楽家自身によって組織された日本演奏連盟は、そういう一つひとつの実践を束ね支援してきた。創立時879人だった会員も50年目を迎えた現在、3500人に達している。
 さて、創立50周年記念日の7月12日に向けて、彼らが日本音楽の歩みを振り返るという。『演奏家と邦人作曲家シリーズ』と銘打たれたこの連続演奏会は、サントリーホール ブルーローズで一週間にわたり、大べテランや国際的に活躍するスターから若手実力派までが連日競演する。明治期から現代に至る邦人作品が並ぶプログラムも壮観で、まさに連盟が総力を挙げて挑む企画だ。
 6夜のコンサートはそれぞれにテーマ性を持っている。第一夜は日本クラシックの礎石を築いた明治生まれの二人の作曲家、山田耕筰と信時潔にスポットを当て、歌曲やピアノ独奏曲から弦楽四重奏までが取り上げられる。第二夜は明治黎明期の作曲家・瀧廉太郎にはじまる日本歌曲の歩みを追う。第三夜はピアノ作品の夕べで、戦前に活動を始めた清瀬保二や橋本國彦といった作曲家から、12音技法をいち早く習得した諸井誠や独自のポエジーを紡いだ武満徹、ミニマリズム風の作風へと移行した一柳慧らの諸潮流を俯瞰する。第四夜は独奏曲から弦楽合奏まで様々な編成の器楽曲。黛敏郎「BUNRAKU」(1960年)の初演時、チェロ独奏を務めた堤剛はまだ10代だった。今回もその堤の演奏で。第五夜は合唱曲。合唱を通じて音楽の世界に入った人は多いはず。懐かしのあの曲から合唱の可能性を拓いた名作まで、まさに合唱文化のエッセンスが開陳される。世界から熱視線を浴びる山田和樹が、音楽監督を務める東京混声合唱団を指揮するのにも注目だ。創立記念日にあたる最終夜は、能狂言という日本の伝統芸能をオペラ仕立てにした牧野由多可「黒塚」、別宮貞雄「三人の女達の物語」の2作が、オーディションによって選ばれた若手メンバーによって上演される。
 全体に歌ものの比重が高いが、これは日本の音楽家が最も苦心したであろうジャンルだ。聴衆にダイレクトに伝わる日本語は、ヨーロッパ言語圏で発達した音楽とはなじみにくいからである。そのあたりの作曲家・演奏家たちの苦闘の跡にも耳を傾けたい。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年6月号から)

第一夜 7/6(月)18:30 「山田耕筰」と「信時潔」 没後50年記念
第二夜 7/7(火)18:30 歌の日 日本歌曲の歴史を辿って
第三夜 7/8(水)18:30 ピアノの日
第四夜 7/9(木)18:30 器楽の日
第五夜 7/10(金)18:30 合唱の日
最終日 7/12(日)14:00 室内オペラの日
サントリーホール ブルーローズ(小)
問:日本演奏連盟03-3539-5131 
http://www.jfm.or.jp