シュツットガルト・バレエ団 『ロミオとジュリエット』『オネーギン』『ガラ公演』


シュツットガルトの奇跡

 明確なヴィジョンと実行力を持ち、強い意志とリーダーシップ、そして心に深い愛を宿してカンパニーを率いる指導者を得たバレエ団は、あっという間に躍進をとげる。ジョン・クランコのもと、一気に国際的カンパニーへと駆け上がったシュツットガルト・バレエ団がそうであるように。
 1961年芸術監督に就任したクランコは、まずダンサーの技術的水準を向上させ、同時に自身で質の高い作品を次々と創作、レパートリーの拡充にもつとめた。創立まもなくカンパニーに参加したマリシア・ハイデは、クランコ作品のヒロインを生き生きと踊り、観客の心を揺さぶる“女優バレリーナ”として花開いた。69年、バレエ団のニューヨーク公演は大成功。クランコの監督就任からわずか7年ほど、“シュツットガルトの奇跡”と呼ばれる伝説的な大躍進だった。
 現在の芸術監督リード・アンダーソンがバレエ団を率いるようになったのは96年。クランコの薫陶を受けたアンダーソンは、その伝統をしっかりと守りながら、レパートリーを拡大。時代とともに進化するカンパニーには、世界から才能豊かなダンサーが集結している。
 今回3年ぶりの来日公演で上演されるのは、『ロミオとジュリエット』と『オネーギン』、いずれもクランコが遺した傑作バレエ、バレエ団が誇る看板演目である。

クランコが遺した傑作

 プロコフィエフ作曲『ロミオとジュリエット』は、あまたの振付家がバレエ化しているが、クランコのそれは、若者たちのときめきや絶望…大きく揺れうごく心の振幅を、みずみずしく描き出すもの。たとえば、あのバルコニーの場面。恋に落ちた二人の心と心が近づき、ときめきが重なりあい、増幅しながら空間を満たしていくさまを描き出すパ・ド・ドゥである。絶え間なく流れ続ける感情の波が、客席にまで流れ出し、観客の心をも揺さぶっていく。
 いまや世界のさまざまなカンパニーで上演される、20世紀の古典バレエとなった感のある『オネーギン』。チャイコフスキーのピアノ曲やオペラなどをもとにアレンジされた音楽とダンスによりドラマが生成されていく。圧巻はタチヤーナとオネーギンによる二つのパ・ド・ドゥ。理想と高揚感、過去の記憶と現在の相克、未練、絶望など二人の心の綾が、克明に描き出される。象徴的に使われる鏡、手紙を破るという行為の反復、モティーフの使い方にも注目を。
 さらにどちらの作品でも重要な存在が群舞。単なる背景や、装飾ではなく、世代や社会、あるいは登場人物の心理の映し鏡ともなり、彼らを取り巻いていく。
 フリーデマン・フォーゲル、アリシア・アマトリアン、ジェイソン・レイリーら日本でもおなじみのダンサーに加えて、日本で初めてオネーギンを踊ることになったロマン・ノヴィツキーをはじめ、『ロミオとジュリエット』ではエリサ・バデネス、ダニエル・カマルゴら、若く勢いのあるダンサーが出演する。
 なお今回は、カンパニーの歴史を刻んできた作品の数々とともに現在のレパートリーを披露する一夜限りのガラ公演も行われる。いずれも見逃せない公演だ。
文:守山実花
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年6月号から)

『ロミオとジュリエット』11/13(金)〜11/15(日)
『オネーギン』11/21(土)〜11/23(月・祝)
『ガラ公演〈シュツットガルトの奇跡〉』11/18(水)18:30
東京文化会館 
6/6(土)発売
問:NBSチケットセンター03-3791-8888 
http://www.nbs.or.jp

他公演
『ロミオとジュリエット』11/25(水) ニトリホール(011-241-3871)
『オネーギン』11/28(土) 兵庫県立芸術文化センター(0798-68-0255)