浦山純子(ピアノ)

2人の作曲家の“望郷の念”に共感して

 ©Masafumi Nakayama
©Masafumi Nakayama
 数あるピアノ協奏曲の中でも、ショパンの第1番、ラフマニノフの第2番はいわずと知れた名曲だ。しかし、意外なことに、この2曲をカップリングさせたアルバムは珍しい。その貴重な一枚を浦山純子がリリースした。山下一史が指揮する仙台フィルとセッション録音を行い、丁寧かつ瑞々しい音楽作りを実現したアルバムだ。浦山は単なる人気曲としてこの2曲を収めたわけではない。ショパンとラフマニノフ、両者のエキスパートという強みを生かした取り組みなのだ。
 彼女はワルシャワのショパン音楽院で2年間学んだのち、ラフマニノフの親友ゴリデンヴェイゼルの孫弟子にあたる先生がいるロンドンへ渡る。ロシアピアニズムの身体の使い方、多様なタッチから生まれる魔法のような色彩に魅せられ、それを学ぶためだったという。
「私にとってショパンとラフマニノフの作品は自然に自分を表現できる音楽です。ショパンは歌心に寄り添い語るように演奏することを、ラフマニノフは壮大な響きと複雑な構築力を大切にしています。どちらもスラヴ系で、私が東北人だからなのか(笑)、独特の民族的なリズム感や奥ゆかしく朴訥とした温かさにも強く惹かれます。また二人とも故郷を離れ、戻ることなく亡くなりましたが、彼らの音楽には強い望郷の念を感じます。私もヨーロッパで11年暮らしていた頃、また3年前の震災で仙台の実家が被災したときには、故郷という存在、そして故郷に戻れることの有り難さを感じました。彼らが自国の音楽を大事にし続けたことにも共感しますね」
 浦山のピアノに呼応し、山下率いる仙台フィルがきめ細かなテクスチュアを織りなし、見事なアンサンブルを聴かせる。
「仙台フィルは、私が12歳の時に初めてオーケストラと共演した楽団です。それは創作オペラの主役としての舞台で、なんと指揮が山下さんでした。当時からピアニストを目指していましたが、声楽や様々な楽器と出会うことができ、音楽の素晴らしさを総合的に肌で感じた体験でしたね。山下さんと再会し、当時の幸せな記憶も甦りました。今回の録音ではピアノの上蓋を外すという初めての経験をし、ピアノとオーケストラとが溶け合うような、極上の一体感を堪能させていただきました」
 6月からは『ショパン&ラフマニノフの世界』と題した二人の作曲家の人生を辿るコンサートも開始。ソロと室内楽を含めた意欲的な4回のシリーズで、2016年夏まで続く。浦山のショパン&ラフマニノフをたっぷりと堪能したい。
取材・文:飯田有抄
(ぶらあぼ + Danza inside 2014年7月号から)

『ショパン&ラフマニノフの世界』Vol.2
2015/3/15(日)14:00 浜離宮朝日ホール

CD『コンチェルト』
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