キット・アームストロング(ピアノ)

ブレンデルが絶賛する希有な才能

©Jason Alden
©Jason Alden

 “大変な才能らしい”という噂をあちこちで耳にするキット・アームストロング、日本初となるソロリサイタルがもうすぐ行われる。
 13歳からの師であるアルフレッド・ブレンデルが「これまでに出会った中でも最も偉大な才能の持ち主」と絶賛する新鋭だ。ロサンゼルスで生まれ、カーティス音楽院とロンドン王立音楽院で学んだアームストロングは、現在22歳。作曲も手がけ、また音楽以外に数学の学位も持つという。
 彼の卓越したセンスと知性は、プログラムからも見て取ることができる。前半は、バッハのオルガン曲である「コラール前奏曲」と「パルティータ第6番」の間に、自らの作曲による「バッハの名による幻想曲」を挟み、複数の視線をもってバッハの音楽に迫る。自身が作曲家であり演奏家であるという二面性を認識したうえでのアプローチは、聴く者に新しいバッハの姿を見せてくれるかもしれない。
 後半はリスト「2つの伝説」から「小鳥に説教するアッシジの聖フランチェスコ」、超絶技巧練習曲集より第10番、メフィスト・ワルツ第1番、バッハ「幻想曲とフーガ」のリスト編曲版という、これも深い思惑のありそうな選曲。一連の流れで、リストがバッハを敬愛していたこと、また両者の間にある優れた類似性を提示したい考えがあるそうだ。
 恩師ブレンデルから学んだのは、音楽に向かう上での哲学だという。知性派であるが、音楽づくりは自由でのびのびとしているし、圧倒的な技巧と繊細な表現力の持ち主でもある。この機会に、生の演奏を聴いておきたいピアニストだ。
文:高坂はる香
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年3月号から)

浜離宮ピアノ・セレクション —気鋭の『今』を聴く—
キット・アームストロング ピアノ・リサイタル
3/5(木)19:00 浜離宮朝日ホール
問:ジャパン・アーツぴあ03-5774-3040 
http://www.japanarts.co.jp