辻井伸行(ピアノ)

2つの“第3番”に期待大!

©Yuji Hori
©Yuji Hori
 辻井伸行が、イギリス最古のオーケストラ、ロイヤル・リヴァプール・フィル初の日本ツアーでソリストを務める。指揮はヴァシリー・ペトレンコ。今年オスロ・フィルとの来日でも話題となったロシアの気鋭の指揮者で、年齢は辻井の一回り上。辻井も共演を楽しみにしているという。
「来日時に聴きましたが、熱い演奏をされる方です。コンサート前にお会いしたら、お人柄も素敵で、背がすごく高かった(笑)。11月にリヴァプールで共演した後の日本ツアーとなります」
 A、Bプログラムともオール・ロシアン・プログラム。辻井が演奏するのはラフマニノフのピアノ協奏曲第3番と、プロコフィエフのピアノ協奏曲第3番。どちらも日本初披露となる。
「ラフマニノフの3番はいつか弾きたいと思い続けていた作品です。今年の5月、バーゼル交響楽団との共演のためスイスに行ったとき、ラフマニノフが滞在した別荘を訪ねる機会がありました。彼のピアノを弾いたり、洋服を着てどれほど大きな人だったかを実感したり。なにより、彼が作曲中に感じていたであろう湖の気持ち良い空気、豊かな自然、小鳥の鳴き声を体感できたのは貴重でした」
 一方のプロコフィエフは、以前アシュケナージ指揮フィルハーモニア管と共演したレパートリーだ。
「プロコフィエフの作品はそれまで演奏したことがなかったので、最初は理解するのが大変でした。でも弾き込んでいくうち、もっと他の作品も弾きたいと思いました。オーケストラと一体となる掛け合いがとても楽しい協奏曲です」
 著名指揮者、楽団との共演を重ねて活躍の場を広げる辻井だが、昨シーズンはショパンとリストを取り上げたリサイタルでも世界の聴衆を魅了した。9月にリリースされたばかりの新譜『ラ・カンパネラ〜ヴィルトゥオーゾ・リスト!』は、そのツアーでより理解の深まったリストの楽曲を集めたもの。
「ピアノの表現力を駆使して書かれた超絶技巧作品には、作曲をする身として憧れます。今回は昔から弾き続けてきた曲に加えて、オペラのパラフレーズなど、新しい作品も取り上げました」
 透き通った音で奏でられる「リゴレット・パラフレーズ」には、華やかさの中にほのかな憂いが滲む。「イゾルデの愛の死」も、絶妙に抑えられた情熱が切ない。
「《トリスタンとイゾルデ》は悲しい結末のオペラですから、あまり華やかにしても、でもドロドロさせすぎても良くない(笑)、さらに歌う表現をするのに苦労しました。録音はさまざまな表現に挑戦できる機会。一方でお客さまのいる演奏会には別の魅力があって、やはり燃えます」
 録音ならではの磨きぬかれた音楽、ライヴならではのひらめきに満ちた音楽。今シーズンも辻井の特別な感性が、心に触れる音を届けてくれそうだ。
取材・文:高坂はる香
(ぶらあぼ + Danza inside 2014年11月号から)

辻井伸行(ピアノ) with ヴァシリー・ペトレンコ(指揮)
&ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団
2015/1/22(木)14:00 大宮ソニックシティ(チケットスペース03-3234-9999)
1/23(金)19:00 横浜みなとみらいホール(完売)、
1/24(土)16:00 滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール(完売)、
1/25(日)14:00 フェスティバルホール(ABCチケットインフォメーション06-6453-6000)
1/27(火)19:00、1/28(水)19:00 サントリーホール(チケットスペース03-3234-9999)
1/29(木)18:45 愛知県芸術劇場コンサートホール(東海テレビ放送事業部052-954-1107)
1/30(金)19:00 福岡シンフォニーホール(KBCチケットセンター092-720-8717)

CD『ラ・カンパネラ〜ヴィルトゥオーゾ・リスト!』
エイベックス・クラシックス
AVCL-25837
¥3000+税