中村恩恵 神奈川県民ホール 開館40周年記念 オペラ《水炎伝説》

演出・振付・美術を手がける中村の世界観に期待

©大河内 禎
©大河内 禎
 古典から最先端まで、つねにハイクオリティな舞台芸術を提供してきた神奈川県民ホールが開館40周年を迎える。満を持して上演されるオペラが、この《水炎伝説》だ。作曲はこれまでも多くの作品を同ホールに提供してきた一柳慧。台本は日本を代表する詩人の大岡信によるもの。同曲は2005年に混声合唱とピアノのために発表されたものだが、今回は管弦楽版として編曲しオペラ《水炎伝説》としての改訂初演となる。
 今回の話題のひとつは、演出・振付・美術に中村恩恵が抜擢されたことだ。中村は神奈川出身だが、イリ・キリアン率いる世界的ダンスカンパニーNDT(ネザーランド・ダンスシアター)で活躍してきた。そのキリアン作品で衣裳を提供してきた菱沼良樹が衣裳で参加、首藤康之が「語り」と演出振付補として参加するのも見どころだ。NDT退団後も強い世界観と豊かな表現力で多くのダンス作品を手がけてきた中村だが、オペラ演出は初挑戦だという。
「一柳さんの作曲だと聞いて『やりたい!』と即答しました(笑)。先日実際に歌を入れた音の打ち合わせがあったのですが、身体がしびれましたね。ヨーロッパにいた頃、オペラで踊る機会もありましたが、やはり『音楽が主で、舞踊は従』という感じでした。今回、ダンサーである私が演出する意義があるものにしたいと思います」
 3人のダンサーはNDT1出身の渡辺レイ、元東京バレエ団の後藤和雄・武石光嗣。中村自身の選出で、その実力は折り紙付きだ。
 1幕3場のストーリーは古代神話時代が舞台である。美しい娘・アカトキ乙女は、夜と昼の狭間に訪れる暁がもつ、儚くきらめく美しさの象徴だ。昼と夜が、彼女を求めて争う。やがて物語は黄泉の世界にまで展開し、男と女、生と死、永遠と瞬間、尊さと儚さ…等、幾重にも絡まり合いながら綴られていく。
「舞台芸術は、成し遂げた途端に過ぎ去ってしまう刹那の美しさの連続です。しかしだからこそ『一瞬の中に永遠を感じる』という奇跡を体験できる。アカトキ乙女はその象徴です。この舞台はとても身近な、異なる次元にある今の世界のことかもしれません」
 出演はアカトキ乙女を演じる天羽明惠の他、加賀ひとみ、高橋淳、松平敬と、競演が楽しみな面々である。
「身体を使って発するという点では歌もダンスも同じです。ダンスはときに役者の内面を描くように、ときに拮抗させて互いを際立たせるように場面に応じて関係性を変化させたいですね。舞台美術もシンプルに、観る人のイメージが広がるものを考えています」
 この舞台で中村が伝えたいことはいったい何なのだろうか。
「何不自由ない暮らしでも、魂が燃えるようなことがなければ、その人生は耐えがたい苦痛の連続と感じるかもしれない。そこから逃げようとして過激な行動に出たり他人を傷つける人もいます。でも本当は、そういうときにこそ芸術は必要なんです。『一瞬の永遠』に触れる、そして人が生きる意味を実感できる。この舞台では、そのことを描きたいですね」
取材・文:乗越たかお
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年1月号から)

2015.1/17(土)、1/18(日)各15:00 神奈川県民ホール (小)
問:チケットかながわ0570-015-415
http://www.kanagawa-kenminhall.com