古川展生(チェロ)

節目の年はバッハで直球勝負!

 ©Masafumi Hikita
©Masafumi Hikita

 アルバム・デビュー15周年を迎え、人気・実力ともに各方面から最も注目を集めるチェリストが、ついに古今のチェロ作品の金字塔とされるバッハの「無伴奏チェロ組曲」の全曲録音&演奏会に挑んだ。
「1年半ほど前にレコーディングのお話をいただいた時には正直、途方もないことのように思えました。でもこの作品を中学時代に勉強し始めて以来、ずっとバッハの音楽と向き合ってきたことや、2000年のバッハ・イヤーに第1番・第5番・第6番を収めたCDをリリースし、第4番以外はこれまで演奏会でも折に触れてとりあげてきたことなどを拠り所に、少しずつ準備をして計画を立てて取り組み、先ずはレコーディングに間に合うように自分を持って行くことができた。こんなにバッハのことばかり考えて毎日を送るのは初めてですが、今とても充実した気持ちです」
 クラシック・ファンならずとも耳にしたことがある人気の第1番やそれに次ぐ第3番、短調の第2番と第5番など、いずれも前奏曲と舞曲からなる6曲で構成されているが、6つの組曲それぞれが違った世界を持つ。
「録音は第4番からと決めていました。この曲のEs-Dur(変ホ長調)というのは開放弦(指で弦をおさえずに音を出す)がほとんど使えず、かなり左手に負担がかかるので指が元気なうちにと。その次に取りかかったのが、壮麗で奥行きが深いだけに手強い第6番。留学時代に国際コンクールを受けた時の課題曲でもあり、前回のCDでもこの曲をメインに考えていたほど個人的にも思い入れがあって、特にアルマンドやサラバンドは全曲の中でも最も優雅で美しいと思います。この2つで勢いにのって、残りは一気に」
 古川はCDのリリースにあわせて「無伴奏」の全曲演奏会を12月14日に京都で行う。演奏会では休憩を挟んで3時間にも及ぶ長丁場。チェロ1本で舞台に登場し、壮大な物語を紡ぎ出す。
「使用する楽器はいつもと同じ(1753年製のヨゼフ・ガリアーノ)。以前、バッハ時代の演奏慣習や奏法などピリオド・アプローチを学び、当時の楽器で演奏した経験も有意義だったと思うし、そうしたいろんな方面から取り組んだものを全部含めて、敢えて“弾き手主導”で、現在の自分の演奏をありのままに表現できたらそれでいいと、今は思えるようになりました」
 クラシックはもとより、幅広いフィールドで目覚ましい活動を続け、今後も更なる活躍が期待できる。
「いろんなことに挑戦できて本当に恵まれていると思う。何よりクラシックの演奏を続けられるのが幸せですね」
取材・文:東端哲也
(ぶらあぼ + Danza inside 2014年11月号から)

12/14(日)14:00 京都府立府民ホール・アルティ
問:エラート音楽事務所075-751-0617

CD『バッハ 無伴奏チェロ組曲全曲』
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¥4000+税