吉田 都

©青柳 聡
©青柳 聡

 吉田都が『ボレロ』を舞う。
 東京文化会館で行われる「日本舞踊×オーケストラ Vol.2」公演において、日本舞踊の男性群舞と共演するのだ。
「『ぜひ』とお受けしましたが、ベジャールの『ボレロ』を観て育っていますから、恐れ多いという気持ちもありました。構成・演出をなさる花柳壽輔先生が、ベジャールさんと直接、『ボレロ』のお話をされたと伺い、背中を押していただきました。難しく大きなチャレンジですが、これまでとは違うアプローチができたらと思っています」
 振付は、日本を拠点に活動し、実験的な作品を創作しているアレッシオ・シルヴェストリン。吉田とは初顔合わせになる。
「彼の作品は、振付、空間やライティングの使い方も興味深く、ご一緒できたらいいなと思っていました。私も現代作品をまったくやっていないわけではないのですが、私がこれまで踊ってきたものと、彼の振付スタイルの間にはだいぶ距離があります。チャレンジするからには、彼のスタイルを学び、彼のやりたいことを表現したい。彼の話を一言も聞き漏らさないよう、集中してリハーサルに臨んでいます」
 当初は、経験したことのない慣れない動きに、朝起きたときに痛みで動けなかったこともあるという。今、その身体は少しずつ新しい動きを受け入れ、変化しはじめているのだろう。
「アレッシオさんの振付は、外に出ていくエネルギーがあり、同時にコントロールが効いています。振付が私の中に入り、思い切り動けたときには、心地よい開放感を感じるのでしょうね、バランシンやフォーサイスを踊るときのように。そう感じられるところまで、じっくりと向き合っていきたいです」
 9月にはオーチャードホール25周年ガラで、プティ振付『アルルの女』を踊った。新たな振付スタイルへの挑戦だった。
「こうしたチャレンジを今できることが嬉しいですね。違う世界を見せていただく経験が、現在の私の力、エネルギーになっています。年齢を重ね、身体の状態も変わり、踊る作品も変わっていきますが、チャレンジすることで自分が変化をしていると感じています。クラシックでも、まだまだ進化していけるのではないかと思います」
 「まだまだ進化していける」——クラシック・バレエを極めた吉田が語るからこそ、深く、重い言葉だ。
「『ラ・シルフィード』は大好きな作品で、ずっと大切に踊ってきましたが、一番最近踊ったものは、今までと違って感じられたんです。これまで以上に細かいところまで神経が届き、一つひとつのステップを愛おしみ、幸せな気持ちで踊ることができました。バレエに対する想いをより深くこめることができたように感じたのです」
 怪我に苦しみ、クラシックを踊ることは難しいのではないかと思った時期もあったというが、あるひとつの出会いが、その心身に大きな変化を与えた。
「信頼できるパーソナルトレーナーの方と出会い、一から身体を作り直していったんです。その結果、身体の調整ができ、ポジティブな気持ちで、舞台を迎えることができるようになりました。身体に痛みや不安があると、自分の思うところまでもっていけないのではないかと舞台に立つことに恐怖を覚えてしまいますが、今は違います。身体が若返ることはありませんが、コントロールが効くようになり、また踊る機会が増えていることを嬉しく思っています。
 バレエがすばらしいと思うのは、踊ることで必要な筋肉がついていくこと。リハーサルに入ればその作品を踊るのに必要な身体ができあがります。若く、動けるときは、踊りで身体を作るのが一番ですが、現在の私にはトレーニングが必要でした。以前よりもインナー・マッスルを使うことができ、しっかりと軸を作れるようになっています」
 自身の身体の奥底と徹底的に向き合い、彼女はさらなる高み、まだ見ぬ地平へと踏み出していく。
「34人の日本舞踊の方々とひとつになったときに、どのような作品になるのか私自身も楽しみにしています。新しい吉田都をご覧いただけたら、とても嬉しいです」
取材・文:守山実花
(ぶらあぼ + Danza inside 2014年12月号から)

東京文化会館 舞台芸術創造事業
日本舞踊×オーケストラ Vol.2
12/13(土)18:30、12/14(日)15:00 東京文化会館
『葵の上』『ライラックガーデン』『いざやかぶかん』
『パピヨン』『ボレロ』
問:東京文化会館チケットサービス03-5685-0650
http://www.t-bunka.jp