樋口紀美子(ピアノ)

ショパンのメッセージを伝えたい

(C)山下郁夫
(C)山下郁夫

 ベルリンを中心に33年間をドイツで暮らし、7年前に帰国したピアニスト樋口紀美子がオール・ショパンによるCD『ノアンの思い出』の発売記念リサイタルを開く。
「CDはピアノ・ソナタ第3番をメインに3つのマズルカ、スケルツォ第4番、子守歌、ノクターンを収録しました。リサイタルではお客様により面白く聴いていただこうと思い、スケルツォ全4曲を弾きます。スケルツォの1番、2番はノアンで作られた曲ではないですけれども」
 ノアンは、いうまでもなくショパンの恋人ジョルジュ・サンドの館があった町。ショパンは1839年から1846年にかけて夏の間ノアンで過ごし、彼の全創作の3分の2にあたる作品がそこで生まれた。
「実はこのCDは一度2010年のショパン・イヤーに計画していた企画で、今回のCDジャケットやチラシの写真も、その時にノアンで撮影してきました。事情によりその後リリースしたCDはドビュッシーの『12のエチュード』(発売中)になりましたが、実はジャケットの写真だけは、ノアンで撮ったものをそのまま使っているんです(笑)」
 ノアンで感じた空気はやはり特別なものだったそう。
「サンドはショパンとの思い出を消したくて、館の壁紙を全部変え、ピアノも処分してしまったのですが、やはりすごい雰囲気です。気障な言い方は嫌いですが、ノアンにいた時はずっとショパンと対話していた気がします。ショパンが歩んだであろう散歩道を歩けば、彼の音楽がはっきりと聞こえてくる。撮影も、それを自分の中で聴きながら撮っていましたし、今回の録音でも、その曲の演奏はなかなかよかったかなと思います。どの曲かは内緒ですけれど(笑)」
 ドイツで学んだ彼女が、録音ではなぜドビュッシー、ショパンを?
「もともとはフランスが好きなんです。でも私が出会ったクラウス・ヘルヴィヒ先生という素晴らしい先生がドイツで教えていらしたし、実は私の家系は5代前からずっと、みんなドイツで勉強したり、ドイツ人と結婚したりしているので、たぶん私にとって、ドイツへ行くのが逃れられない運命だったのでしょうね。でもドイツでよかったと思っています。バッハを勉強したおかげでショパンが奥深く見えるようになりましたから。ショパンはものすごくバッハを勉強した人で、けっして表面的なメロディ重視の音楽ではありません。それをドイツでたたき込まれました。私はピアニストとして、偉大な芸術作品を伝える役割を担っていると思いますので、できるかぎり努力をして、少しでも正しいショパンのメッセージを伝えたいですね」
取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ + Danza inside 2014年10月号から)

10/23(木)19:00 浜離宮朝日ホール
問:ミリオンコンサート協会03-3501-5638
http://www.millionconcert.co.jp

CD『ショパン〜ノアンの思い出』
molto fine MF-25702
¥2800+税
10/25(土)発売