宮崎陽江(ヴァイオリン)

“メン・コン”と「ツィガーヌ」の核心に迫ります

Photo:馬場道浩
Photo:馬場道浩

 スイスを拠点にヨーロッパと日本で活動を続けるヴァイオリニストの宮崎陽江。2008年から毎年、東京と札幌で行っている帰国公演が今年も行われる。これまではフランス音楽が中心だったが、今回の演目は、メンデルスゾーンの協奏曲ホ短調と、ラヴェル「ツィガーヌ」。ここでなぜドイツものを? と思われるかもしれないが、そこには宮崎ならではの知的な選曲意図がある。
「当時のヴァイオリン協奏曲の主流は、クロイツェル、ローデといったフランスのヴァイオリニスト兼作曲家。彼らの作品は、メンデルスゾーンがこの協奏曲を書く際のお手本にもなりました。その特徴である流麗な旋律はまさにフランス的と言えます」
 元々はピアノ協奏曲として出発したと考えられ、完成までに6年も要したこの協奏曲。指示や楽想が大きく異なる楽譜が複数存在しているが、宮崎はその精査にも余念がない。
「第1楽章冒頭の有名な出だしひとつとっても、第1稿と現在広く知られているものではまるで違う。その経緯や意図を一つひとつ吟味しながら、メンデルスゾーンの瑞々しいインスピレーションの核心に迫りたいです」
 そしてもう1曲、「ツィガーヌ」でも、宮崎は誠実で入念なアプローチを企図している。
「ラヴェルはフランス人ですが、父親がスイス人で母親がバスク人というハーフでした。精緻さと情熱が複雑に交錯した作風は、その賜物だと思います。ハンガリー系ロマの音楽を下敷きにしたこの晩年の傑作に挑むにあたっては、複雑な和声と、濃厚で熱狂的な表現の双方にバランスよく光をあてたいですね」
 共演は、指揮が秋山和慶。管弦楽は東京公演を東京フィル、札幌公演を札響がそれぞれ務める豪華な布陣だ。
「秋山先生とは今回が初共演。雄大で深い音楽作りをかねてから尊敬していました。昨年もご一緒した札響、今回が初共演ですが友人も多数在籍する東京フィル。どちらの公演も本当に楽しみです」
 この公演に先立つ9月には、スロヴァキアのブラティスラヴァでヨーロッパ公演を開催。レオシュ・スワロフスキーが指揮するスロヴァキア・フィルと初共演し、今回の帰国公演と同じ2曲に挑むという。また、昨年9月には「フランス6人組」の一人、ミヨーのCDを発表。ジャズや民族的要素も交えた多彩な音楽を洒脱に表現し、高い評価を得たことも記憶に新しい。その確かな手応えの数々は、今後のさらなる飛躍を予感させる。
取材・文:渡辺謙太郎
(ぶらあぼ + Danza inside 2014年9月号から)

10/8(水)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
問:コンサートイマジン03-3235-3777
http://www.concert.co.jp

10/17(金)19:00 札幌コンサートホールKitara
問:オフィス・ワン011-612-8696
http://www.officeone.co.jp

【CD】『パストラル 宮崎陽江 プレイズ ミヨー』
オクタヴィア・レコード 
OVCX-00072 ¥2857+税