ミュージカル『ミス・サイゴン』

筧利夫と駒田一のダブルキャストに注目

 音楽に浸りながら、登場人物たちの人生を生きているような感覚ー『ミス・サイゴン』は間違いなく、そんなミュージカルの醍醐味が味わえる作品だ。世界28ヵ国で上演され、日本でも1992年の初演以来、再演を重ねている傑作だが、今年5月にはロンドンで最新演出版が開幕。7月には帝国劇場でも幕を開け、約2ヵ月に及ぶシーズンの最終地として、よこすか芸術劇場に上陸する。その魅力は“生々しさ”と“美しさ”だ。幕が上がった瞬間、目の前にはサイゴンの街を再現したセットが広がり、人々の息づかいや夏の匂いを感じるほどのリアルさ。本物を追求しつつ、絵画のように美しい舞台の上で描かれるのはベトナム戦争末期、運命的に出会った少女キムとアメリカ兵クリスの悲恋だ。やがて引き裂かれる2人の姿が戦争の残酷さ、愛することの美しさを伝える。物語のキーパーソン、エンジニア役に挑むのは筧利夫と駒田一。04、08年にも同役を務めた筧は小劇場で鍛えたしなやかな演技を武器に、明るさの中に鋭さを漂わせるエンジニア役で観客を惹き付ける。一方の駒田はミュージカルファンの間では実力が知られた存在。この大役は初挑戦ながら、色気を含んだ声量豊かな歌唱で聴かせる「アメリカン・ドリーム」は圧巻の一言だ。「命をあげよう」などの数々の名曲や普遍的な愛のドラマが、忘れられない感動を与えてくれるに違いない。
文:宇田夏苗
(ぶらあぼ + Danza inside 2014年10月号から)

10/4(土)12:00/17:00、10/5(日)12:00 よこすか芸術劇場
問:横須賀芸術劇場046-823-9999
http://www.yokosuka-arts.or.jp