アダム・クーパー

(C)CHIAKI NOZU
(C)CHIAKI NOZU

 イギリスでロングランを続けたミュージカル、『SINGIN’ IN THE RAIN〜雨に唄えば〜』待望の日本公演で、主人公ドン・ロックウッドを演じる。
 タイトル通り、雨の中での歌とダンスがあまりにも有名なこの作品。舞台の上に大量の水が降り注ぐ中、軽快なステップを見せるシーンが話題を集めている。
「公演当初は濡れた舞台でよくつまづきました。タップ・ダンスに向いていて、かつ濡れても滑らない床材探しが難しくて。最初のチチェスターでの公演では、4回ほど転んでしまった、水とダンスは相性が悪いからね(笑)。その後のロンドン公演では、素晴らしい床材が見つかり、床を改良したので、大丈夫、もう転んでいません」
 このシーンで唄われる『雨に唄えば』はクーパーお気に入りのナンバーでもある。
「2つ理由があって、まずこの作品の象徴的なナンバーであること。もうひとつは振付の中で水が大きな役割を果たしていること。ときには前方の客席に水がかかり、それに対するお客様のリアクションがある。そして舞台と客席の間にコミュニケーションが生まれる、それが素晴らしいと思います。好きな曲はたくさんあるのだけど、もうひとつ挙げるとすれば『Moses Supposes(モーゼス・サポーゼス)』かな。言葉遊びに合わせてステップを踏むうちにタップダンスが始まっていく。このシーンのために1940、50年代のタップを勉強しました。当時のタップを踊るのはとても楽しいですよ」
 アンドリュー・ライトによる振付は、ジーン・ケリー主演の映画からステップを引用しつつ、現代にふさわしい躍動感を持つ。
「彼の振付にはモダンな工夫があり、設定である1920年代の雰囲気を生かしながら、それをより現代的にし、スポーツのような感じに仕上げている。ただ、この振付を1週間に何度も演じると、へとへとになります(笑)。これまでに踊ったミュージカルの中でも、体力的には一番きつい作品です」
 彼が演じるドンは、サイレントからトーキーへと移行する時代の俳優だ。身体のみの表現から、言葉による表現へ。それはバレエからミュージカルの世界へと活動の幅を広げたクーパー自身も経験したことだった。
「ダンサーである私も、ドン同様にずっと言葉を使わない表現を続けてきました。ミュージカルに出演した当初は歌やセリフ、演技に悩みましたが、ドンを演じる上では、私自身の経験にずいぶん助けられました。サイレント時代の俳優を演じ改めて感じたのは、身体で多くのことを表現できるということ。表情も同じです。言葉がなくても目で多くを語ることができます」
 英国ロイヤル・バレエ団に在団中、マシュー・ボーンの『白鳥の湖』に出演、圧倒的な魅力を放ち、大ブレイクした。当時、彼はプリンシパルとして成功を収めながらも、自身のキャリアにはクラシック・バレエ以外にもなにかあるのではないか、と感じていたのだという。
「マシューからのオファーを受けたとき、大きなリスクもあるけれど、これこそが自分にとって、たった一度のチャンスかもしれないと感じました。まるごと一作品でプリンシパルとして役を創り出せる、唯一のチャンスかもしれないと。その『白鳥の湖』が初演されて来年で20周年になりますが、今だに再演され続けています。まさに信じがたいことが起きた。この作品に関わったことが、私のターニングポイントでした。
 今、私自身が意識しているのは、ひとつのことに集中すること。そうすることで今のキャリアを築くことができたと思いますし、今もいろいろなことができて幸せです。未だに踊れるし、振付も演技もできて、歌も歌えるのですから」
 イギリス以外で、もっともステージに立つ機会の多い日本は、彼にとって第2の故郷のようなものと笑顔で語る。
「日本の皆様に『雨に唄えば』をどうご覧いただけるか、楽しみです。喜びにあふれた作品の雰囲気を楽しんで、ハッピーな気持ちになっていただけますよう!」
取材・文:守山実花
(ぶらあぼ + Danza inside 2014年10月号から)

ミュージカル『SINGIN’ IN THE RAIN〜雨に唄えば〜』
演出/ジョナサン・チャーチ 
振付/アンドリュー・ライト 
出/アダム・クーパー 他
11/1(土) 〜11/24(月・休)東急シアターオーブ
問:パルコ03-3477-5858
http://www.singinintherain.jp