歌劇《梧桐雨》 〜楊貴妃物語〜

楊貴妃がオペラになった!

《梧桐雨》の舞台 (C)Photo courtesy of National Chiang Kai-Shek Cultural Center, Taiwan. Photographer: Chen Hsiang LIU
《梧桐雨》の舞台 (C)Photo courtesy of National Chiang Kai-Shek Cultural Center, Taiwan. Photographer: Chen Hsiang LIU

 唐の楊貴妃といえば、日本でも有名な絶世の美女。玄宗皇帝に愛されたものの、将軍安禄山の反乱で運命は急転。逃避行の果て、軍の不満を抑えるべく貴妃は自ら命を絶つ。その潔い最期もあって、彼女の肖像は多くの芸術作品の題材であり続けている。
 さて、この6月に横浜で、この美女の悲運を描くオペラ《梧桐雨 The Firmiana Rain》が上演される(演奏会形式)。題名は元朝の同名戯曲に基づき、皇帝と貴妃の「梧桐(アオギリ)」にちなむ逸話を踏まえたものだが、筋立てには清代の崑劇『長生殿』の要素も入っているという。
 2002年にニューヨークで世界初演の本作、台本と作曲を手掛けたのは台湾出身の女性、陳(メイ=チー・チェン)である。数少ない「女性が描く『楊貴妃像』」としてもなかなかに興味深い。まずは音楽が凝っていて、〈安禄山の胡旋舞〉では琵琶と木琴が軽快に絡み、月の女神の嫦娥がヒロインと戯れる場では女性4人のアンサンブルで幻想性が花開き、貴妃の死の場ではアカペラの大アリアが悲愴感を強く炙り出す。また、詩人の李白を女性が男装して演じ、東洋風の発声法で歌いきるあたりも面白いひとこま。有名な漢詩が旋律色豊かに表現されている。今回は演奏会形式での上演だが、衣裳と振付が付くのでドラマの哀歓は大いに堪能出来るはず。日中混成キャストのもと、西洋音楽と東洋の美学が溶け合う「異色の注目作」として紹介してみたい。
文:岸 純信(オペラ研究家)
(ぶらあぼ2014年6月号から)

★6月21日(土)・横浜みなとみらいホール Lコード:32551
問:横浜みなとみらいホールチケットセンター045-682-2000
http://www.yaf.or.jp/mmh