三輪 郁(ピアノ)

シューマンはライン川に映る緑のイメージ

 定評あるモーツァルトをはじめ、長く暮らし学んだウィーンの空気を運んでくれるピアニスト三輪郁。しかしもちろん、ウィーンの音楽にとどまらずレパートリーは多彩だ。6月にはチェコの名門プラジャーク・クヮルテットの日本公演で共演。東京、京都などでシューマンのピアノ五重奏曲を弾く。シューマンは、ウィーンでの学生時代、どっぷりハマった作曲家だという。
「ピアノ作品はほとんど弾いたという感じです。モーツァルト、シューベルトが私の軸だとすると、そのすぐ横にいる、大好きな作曲家。私の中ではみどり色のイメージなんです。それもライン川の川面に映る森の緑。だから動いている緑なんですね。いろんな風景や感情が、見る角度によってどんどん変わりながら過ぎて行く感じ。それはたぶん彼の心の起伏だったり、楽器の鳴らし方であったり。好きですねー、シューマン」
 プラジャーク・クヮルテットとは2年ぶり2度目の日本ツアーとなるし、同クヮルテットのチェリスト、ミハル・カニュカとは日本のみならずプラハでも共演している。
「みんな普通の、いいおじさんたち。お酒もちゃんと飲むし(笑)。ベテランだけどフレッシュで、すごく生き生きとしています。それに、すごく柔軟な感性を持っているのです。音楽を使って遊んでいるというか、とても自由で、基本は守るけど、それ以外のところはぐにゃぐにゃ(笑)。そこまでやる!?という、ぎりぎりOKなところがすごく面白いです」
 彼女自身、「ウィーンの音楽の最大の特徴もやわらかさ」と感じていたというから、もともとの相性もよいのだろう。
「でも、ウィーンを離れてから、それを忘れないようにと、逆にがんじがらめになっていたところがあって、そんな自分を解き放ってもらった気がします」
 前回の共演はドヴォルザークだったので、チェコの伝統を盗んでやろうという気持ちも強かったという。
「でも、2度3度舞台を重ねるうちに、どこか私に主導権があるような様子を背中で見せてくれるというか、私がちょっと違うことを仕掛けると、にやっと笑いながらついて来てくれる感じです。でも彼らは彼らでちゃんと音楽を作っていく。そういうキャッチボールが、今回もとても楽しみ。彼らの持ち味を生かせる演奏になったらいいなと思っています。そして、やっぱり弦の国の人たち。楽器を鳴らすこと、楽器で“しゃべること”がとても上手です」
 彼女がウィーンで身体に染み込ませて来た感性と、チェコの弦楽四重奏の伝統が交わり、互いが自由に“ぐにゃぐにゃ”に仕掛け合いながら高め合っていくシューマン。室内楽の定番曲に、心地よい刺激が吹き込まれそうな予感。
取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ2014年6月号から)

プラジャーク・クヮルテット&三輪郁
★6月9日(月)・よみうり大手町ホール Lコード:31989
 13日(金)・京都コンサートホール アンサンブルホールムラタ Lコード:51708
問:KCMチケットサービス 0570-00-8255
http://www.kojimacm.com